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東京高等裁判所 平成7年(ネ)3272号 判決 1995年12月20日

千葉市稲毛区天台一丁目二五番八号

控訴人

篠塚賢二

東京都大田区中馬込一丁目三番六号

被控訴人

株式会社リコー

右代表者代表取締役

浜田広

右訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を東京地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  原判決の引用

当事者の主張は、次項のとおり付加するほかは原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における当事者の主張の要点

1  控訴人

原判決は、「本件訴えは一部請求の名のもとにいたずらに・・・同一の訴訟を蒸し返すものであり、これまで繰り返し理由がないとする裁判所の確定した判断を受けている請求と実質的に同じ請求をするものであって、被告の地位を不当に長く不安定な状態におき、ことさらに被告に応訴のための負担を強いることを意に介さず、民事訴訟制度を悪用したものであるとの評価は免れない。したがって、本件訴えは、訴権の濫用にあたるもので、訴えの利益を欠き不適法であり、しかもその点を補正することができないものであるといわざるを得ない。」と判断しているが、以下に述べるとおり、誤りである。

民事判決の対象である私法上の権利関係は、時が経過すれば、発生・変更・消滅の可能性があるのであって、民事訴訟は常に現在(その訴訟の口頭弁論終結当時)の法律状態を確定するものであるから、時的要素を取り入れて考えれば、厳密に同一事件というものはないことになる。

未だに法律知識も豊富といえず、本人訴訟を継続する控訴人(非法律専門家)が民事訴訟制度を悪用するなどということは到底不可能であると同時に到底思いも及ばないことが自明であるから、原判決がいう「被告の地位を不当に長く不安定な状態におき、ことさらに被告に応訴のための負担を強いることを意に介さず」ということも、「本件訴えは、訴権の濫用にあたるもので、訴えの利益を欠き不適法」ということも、誤りである。

また、判決の既判力は、主文の判断についてのみ生じ、理由中の判断には及ばないし、いわゆる争点効は判例上未だ認められてないから、本件新訴は旧訴の判断に拘束されない。

控訴人は、いろいろ証拠探し等をも含め必要なすべてを一人でしなければならないところ、どんなに急いでも応分の長時間が必要不可欠であることは経験則上明らかである。また、控訴人は、いかに早期解決を目標として最善を尽くし続ける者であるからといっても、一〇〇パーセント被控訴人の立場を考えて訴額を零円(無償)にすることは到底できない。

本件訴えも、一部請求が許容されて判断されてきたことが明らかな従前におけると同様に、訴権の濫用に当たらず、訴えの利益があることは明らかである。

2  被控訴人

控訴人の上記主張は争う。

第三  証拠

原審記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  原判決の引用

当裁判所も、控訴人の本訴請求は却下されるべきであると判断するが、その理由は、次項のとおり付加するほかは原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の主張について

原判決が認定した事実関係に照らすと、控訴人が訴訟の提起遂行をするには応分の時間と経済力が必要であるとしても、本件事案について、請求の対象となる期間をことさら細かく分割して一部請求を繰り返さなければならない合理的理由を見いだすことはできず、控訴人の本訴提起は民事訴訟において要請される信義則に反するものであって、訴権の濫用に当たり、不適法というべきである。

三  よって、控訴人の本訴請求は不適法であって、これを却下した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

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